Doujin Full-Course2017

同人フルコース2017!
言い換えますと、桜鬼の選ぶ今年の同人誌7選、です……!
(冒頭の写真はガニェールさんで撮らせていただいたものですが、テキストとは全く関係がございません)

【前置き】
(飛ばしてどうぞ)
さて、わたしは普段Twitterにて商業誌も同人誌も関係なく読了ツイートに上げていますので、探そうと思えばメディア欄から色々な本の感想を掘り出すことができる仕様になってはいます。
なってはいますけれど、基本的にその場限りのTLで見逃せばそれまでというスタンスでいますので、他に少し探せば見つかる(かもしれない)場所で個人的なおすすめを上げてみようという気持ちが起こりました。
特に同人誌は好みの本を探すのが一苦労でご本人さまが精力的に宣伝されていても見逃すことがしばしば。
読了ツイートでは商業誌の似た趣味の方は沢山集まってきてくださっているのですけれど、同人誌ですともう一つダメ押しが欲しいところ。
というわけでフルコース。
どうしてフルコースかと言いますと、同人誌評やシーズンレース、コンテスト等既に色々な方が色々なことをされていて、僅かでもユニークさを足したかったというだけのことです。
ああ、長かった前置き。
【Menu】Doujin Full- Course 2017

食前酒『白鳥のソネ』結崎剛訳
前菜『パペット・チルドレン』咲折
スープ『一月の大彗星・前夜』砂金葉之
魚料理『永遠の不在をめぐる』風野湊
肉料理『ウソツキムスメ』泉由良
デザート『五つの小品』灰野蜜
コーヒー『for 「Rain」』村谷由香里他
(敬称略)

食前酒『白鳥のソネ』 結崎剛訳

キリッとした口あたり、目の覚める味。
わたしは海外文学があまり得意ではない。それは翻訳者の文体が舌に合わなかった記憶が若干のトラウマになっている所為。
ところがこの結崎剛さんの作品は先ずグラスが一点もので、中身の色が最も映えるように選ばれている。
この製本の形は他に類を見ない。
新鮮な驚きに魅せられてひと口……あれ、なんだ、翻訳って美味しい……
フランス語と日本語のマリアージュはどちらが跪くわけでもなく、引けを取るまい譲るまいと競演している。

前菜『パペット・チルドレン』 咲折

色鮮やかな数種のソースが真白な皿の上に描かれている。
ときに絡み合うように、ときに退け合うように。
一見不規則に並ぶひと口大の前菜たちは素材も全て異なるようで、どれから口をつけようか迷うほどなのだけれど迷う余裕もなく、いつのまにか完食している。
なんてエンターテイメントだろう。
退廃的な世界観が醸し出す美しさと、そこで鮮明な色を残すキャラクターたちの美しさ。
引き込まれてしまうわけだ。

スープ『一月の大彗星・前夜』砂金葉之

素材をめいいっぱい自らの手の内に引き込んだ味。
舌触りのなめらかな文体は現実に束の間の休息を与える。
肩の力が抜け、決して飽きのこないひと匙をひとすくい、ふたすくい。
そして嘆息。
自然体な群像は二年越しで芽を出す球根や草はらを飛び跳ねる飛蝗並みに気紛れなようでいて、しかし静かに収束する。
わたしたちは確かに傍観者で、それが殊の外心地よい。

魚料理『永遠の不在をめぐる』 風野湊

白身魚がほろりと解れる。
酸味が隠し味のさっぱりとしたソースに魚の味がぎゅっと絡む。
不必要に柔らかいわけではなく、同じ方向にほろりほろりと解れていく。その向きは変わらない。
潮の流れの穏やかな海域で育ったのだろう、穏やかな温もりを感じる。視界は外へと広がっていく。
ひと口毎に揺られている気がする。ほとんど凪いでいる静かな静かな海だけれど。
これで実は素材が深海魚だったりするのだから恐れ入る。

肉料理『ウソツキムスメ』 泉由良

赤ワインのソースは存分にアルコールの味を残している。
色も形も見えないけれどどうやらフォアグラも使われている。
蕾の形に盛り付けられたローストビーフは鮮やかさと不安定さが共存している。
初めから終わりまで濃密な味わい。
内側へ内側へ、暴いては駄目だ。
ただ触れるだけ、見つめるだけ、そうでなければ壊れてしまう。
あともう一つ、果実のような隠し味がわからない。

デザート『五つの小品』灰野蜜

大人味のプティガトー。
これは先ず間違いなくブランデー入りだろう。
こちらは珈琲風味かな。
嗜好品とはまさにこういうものをいうのかもしれない。
ひと口で食べてしまうのが勿体ない。けれど、口いっぱいに広がる香りと味は一度に放り込まなければわからない。
しっとりとした食感とバターのまろやかさ。
目を瞑り味わいたい、浸りたい。

珈琲『for「Rain」』村谷由香里他

ひと癖もふた癖も違う。
豆、焙煎、ブレンド、淹れ方。
素材の味わいを前面に引き出しておきながら最後まで本当のところはわからない。
これもカップに拘りが見える。
ミルクを加えても美味しいし、砂糖を加えても美味しい。どのような飲み方をしたとしてももとの味がはっきりとわかる。
飲み干したあと、白い磁器に残る三日月にはっとする。
ふう、お腹いっぱいです。
あらすじは何処へ消えたのでしょうか。
あまり参考にならないレビュー?が完成いたしましたが、美味しそうに見えていたなら成功です。
また来年も色々な本に出会いたいですね。