フウライチョウチョウウオ

息を吐き尽くし海底を踏めば、白砂がストップモーションで巻き上がる。
海の中の時間は地上の何倍も重みがあり、針が動くのにも抵抗を感じる。

肌の殆どが隠れた重装備に抵抗がないわけでもないが、こちらは陸上生物なのだから仕方があるまい。
岩へ手を置くにも、雲丹の棘が恐ろしければ流石に何の気なしにというわけにはいかない。

珊瑚礁から顔を出し潮に揺られていた小魚が、泡の音に驚き身を翻して影へと潜む。
息を止めればまた、伺うように揺らめきながら浮かびはじめる。
魚たちが身を翻すとき、そこにもう一つの時間をみる。

同時に、どうして、わたしは鰓呼吸が出来ないのだろう。とても情けない気持ちがする。
小鳥に逃げられたときよりも、もっとずっと奥に突き刺さる壁がある。
わたしの愚かな夢想は切り離されてしまう。
頭上から別の船の立つ轟きが、さも天災の如く追い打ちをかける。

ふと水面を仰げば波の網掛けを見る代わりに、一面を銀の羽衣が流れている。
刻々と光の面を変える様に細やかなつくりが見てとれる。
しかしそれは、スマガツオに引き裂かれて生命の色を強くした。

槍の群れが弧を描くこともなくゆったりと真っ直ぐに飛んでいく。
風来と呼ばれる海の蝶は、ふたひら連れ立ち彷徨する。
白旗を揚げ紅い裾を揺らす沙魚も、対をなし巣穴を守っている。
そしてそのうち、わたしは酷く喉の乾いていることに気がつくのである。


記事の写真:フウライチョウチョウウオ

小説:ミスジチョウチョウウオ
ブログ:ミスジチョウチョウウオ(幼魚)
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サークル:マンタ

撮影場所:石垣島
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